イタリアで狂犬病流行

鹿児島大学 岡本嘉六

 

イタリアでは、200810月にキツネが散歩中のヒトを襲ったため、安楽死させて調べたところ狂犬病ウイルス陽性と判明した(20081010日付OIE報告)。イタリアで最後の発生は1995年であったが、今回の発生はオーストリアおよびスロベニアとの国境に近いイタリア北東部(Friuli-Venezia Giulia Region)で起きた。イタリアの北部および東部の国境付近は、かねてより狂犬病のリスクがあるものと見なされており、キツネが国境を越えて侵入したと推定されている(厚生労働省検疫所)。

OIEへの報告は、現在も続いており、下表にまとめた。

報告番号

報告日

総頭数

動物種

頭数

状態

初報

10/10/2008

1

キツネ

1

殺処分

経過報告1

29/10/2008

1

キツネ

1

死亡

経過報告2

05/12/2008

2

キツネ

2

殺処分

経過報告3

09/01/2009

5

キツネ

2

死亡

キツネ

2

殺処分

アナグマ

1

死亡

経過報告4

15/01/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告5

23/01/2009

1

アナグマ

1

死亡

経過報告6

05/02/2009

1

ノロジカ

1

死亡

経過報告7

31/03/2009

1

キツネ

1

捕獲後に死亡

経過報告8

07/04/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告9

08/05/2009

2

キツネ

2

死亡

経過報告10

18/06/2009

1

野生動物

1

死亡

経過報告11

30/06/2009

1

野生動物

1

死亡

経過報告12

02/07/2009

1

飼いイヌ

1

死亡

経過報告13

10/08/2009

1

キツネ

1

殺処分

経過報告14

17/08/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告15

27/08/2009

2

キツネ

2

死亡

経過報告16

02/09/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告17

23/09/2009

1

野生動物

1

死亡

経過報告18

25/09/2009

2

キツネ

1

死亡

キツネ

1

殺処分

経過報告19

30/09/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告20

06/10/2009

2

キツネ

1

死亡

キツネ

1

殺処分

経過報告21

14/10/2009

1

キツネ

1

死亡

経過報告22

19/10/2009

2

キツネ

1

死亡

キツネ

1

殺処分

経過報告23

04/11/2009

1

キツネ

1

殺処分

経過報告24

09/11/2009

4

キツネ

4

死亡

経過報告25

23/11/2009

5

キツネ

4

死亡

イヌ

1

死亡

経過報告26

30/11/2009

5

アナグマ

1

死亡

キツネ

4

死亡

経過報告27

4/12/2009

8

キツネ

3

死亡

キツネ

3

殺処分

イヌ

1

死亡

ロバ

1

殺処分

経過報告28

11/12/2009

4

キツネ

2

死亡

キツネ

2

殺処分

経過報告29

18/12/2009

11

キツネ

8

死亡

キツネ

3

殺処分

経過報告30

31/12/2009

5

キツネ

2

死亡

キツネ

3

殺処分

経過報告3

12/01/2010

11

キツネ

5

死亡

キツネ

5

殺処分

アナグマ

1

殺処分

経過報告32

18/01/2010

7

キツネ

3

死亡

キツネ

3

殺処分

ムナジロテン

1

殺処分

経過報告33

25/01/2010

8

キツネ

5

死亡

キツネ

2

殺処分

アナグマ

1

殺処分

経過報告34

02/02/2010

17

ネコ

1

死亡

ノロジカ

2

死亡

キツネ

10

死亡

キツネ

4

殺処分

経過報告35

11/02/2010

7

キツネ

6

死亡

キツネ

1

殺処分

経過報告36

16/02/2010

11

キツネ

9

死亡

ウマ

1

死亡

ネコ

1

死亡

経過報告37

18/02/2010

2

キツネ

1

死亡

ノロジカ

1

死亡

経過報告38

26/02/2010

18

ネコ

3

死亡

シカ

1

死亡

アナグマ

2

死亡

キツネ

9

死亡

キツネ

3

殺処分

経過報告39

05/03/2010

6

ノロジカ

1

殺処分

アナグマ

1

殺処分

キツネ

4

死亡

経過報告40

13/03/2010

15

ノロジカ

1

殺処分

キツネ

2

殺処分

キツネ

8

死亡

ネコ

3

死亡

イヌ

1

殺処分

経過報告41

23/03/2010

8

ノロジカ

1

死亡

キツネ

4

死亡

キツネ

4

殺処分

経過報告42

31/03/2010

12

キツネ

10

死亡

キツネ

2

殺処分

経過報告43

09/04/2010

19

キツネ

14

死亡

キツネ

5

殺処分

死亡:死亡しているのが発見され、検査によって狂犬病と診断された。

殺処分:臨床症状があり、検査によって狂犬病と診断された。

 

「経過報告43」の疫学的注釈 疫学調査と先月発見された発生例を基に、北イタリアのFriuli-Venezia Giulia地域、Veneto地域およびBelluno地域に限定される発生地帯では狂犬病が風土病となってしまったと考えられる。上記の発生地帯および隣接地帯の20,000平方キロにおいて200万個の餌による経口ワクチンキャンペーンが2010年を通して行われる計画である。

今後の報告 この事態を収束させることは困難であり、風土病となったと考えられる。したがって、今後の毎週の追加報告は行わず、代わりに、6ヶ月毎の報告とする。

「経過報告34」の疫学的注釈: 新たなワクチン投与キャンペーンが以下のように実施されている。

1. 200912月初めに、これまでにも投与が行われてきたFriuli-Venezia Giulia地区4,500平方km)全域に、キツネに対する追加のワクチン含有餌100,000を人手によって置いた。

2. 20091228日からヘリコプターでキツネに対するワクチン含有餌300,000投下し、20101月に入っても以下の地域(約17,500平方km)において餌が凍結するのを避けるため人手によって置き続けている。

- Veneto 地方: BellunoTrevisoVicenza の各地域、ならびに、PadovaVenezia およびVeronaの一部地域

- Bolzanoの一部地域

- Trentoの一部地域。

 

幸いにも、咬まれたヒトは初報のみで、暴露後処置(ワクチン接種)を受けて発症には至らなかった。飼いイヌが感染した経過報告1202/07/2009)には、次のように記載されている。

「発生日:624日。動物病院で死亡したイヌが陽性であった。そのイヌは、24時間前に耳を痛がっていた。特有の攻撃性を示した後、突然死亡した。そのイヌは、Osoppo町内の予防接種義務キャンペーンを受けて、529日に予防注射していた。」

これだけの記載では、何時、どこで、どのようにして狂犬病に罹患しているキツネと遭遇したのか判断できないが、予防接種の効果がなかったことからすると、次のことが考えられる。

1予防接種を受けた529日以前に感染していた。狂犬病の潜伏期間は咬傷部位によって異なるが、検疫法上180日としている(犬等の新たな検疫制度)。予防接種前に感染した場合、既にウイルスが神経細胞に入ってしまっている可能性があり、ワクチンの効果は発揮できない。

2.今回の予防接種が初めての場合、抗体価が十分に上がっていない可能性がある。検疫法上「生後91日齢以降に30日間以上の間隔で2回以上接種」がイヌを輸入する場合に必要とされており、前年に予防接種を受けていない場合には、2回接種しないと十分なワクチンの効果を期待できない。

いずれにしても、前年から狂犬病が流行している地域においてワクチンが功を奏さなかったことは、「予防接種義務キャンペーン」で促されて接種したものと推測され、正しい接種方法が普及していなかったものと考えられる。平時から予防接種を受けていれば、前年のワクチン効果が残っており1回接種で十分な抗体価上昇が得られるのだが、流行が始まってから慌てて接種したのではなかろうか? 

 

欧州における狂犬病」で紹介したように、「経口投与でも有効な新たな狂犬病ワクチンが1980年代に実用化されており、経口ワクチンを入れた小袋を魚粉、脂肪、パラフィンで包んだ餌を作り、森には飛行機やヘリコプターで撒き、都市周辺部は人手で置く」対策が採られている。それでも、1年経った今も発生が続いている。死亡例が発見されることは、それらに感染させた個体が生存している可能性や、死亡前に他の個体を感染させた可能性を示唆するものであり、野生動物に入り込んだ狂犬病を制御する困難さを示している。

 

日本における狂犬病再流行のリスク」で書いたように、「外国船に乗ってきたイヌの上陸」や「密入国、密輸入」によって狂犬病が何時侵入してもおかしくない状況にあり、狂犬病予防法に基づく毎年春の狂犬病予防接種を確実に受けていただきたい(日本獣医師会)。

 

イタリアのフリウリ・ベネツィア・ジュリア州は、アルプス地方の森林帯で旅行者らに人気の観光地だそうだが、狂犬病が一刻も早く終息することを願っている。