堺市の集団食中毒事故の主な原因は何か?
鹿児島大学助教授 岡本 嘉六
 厚生省は先月下旬、大阪府堺市で今夏発生した学校給食による病原性大腸菌O157集団食中毒について、原因調査の最終報告を発表した(資料1)。その内容は「カイワレ大根が汚染していたか否か」という汚染源究明に終始し、学校給食施設の衛生管理はどうなっていたのかという疑問には答えていなかった。
 汚染源の特定は、全国的に散発している事例へ対応するため、確かに大切だ。しかし6500名の患者と2名の死者を出した集団食中毒事故であるうえ、12件中8件が学校関係に集中している(資料2)のだから、学校給食の衛生管理は無視できない問題だ。そこで、衛生管理の観点から、今回の事故を考えてみた。
 一般的に言って、仕出し屋などの「不特定多数の者に食品を提供する」食品業者は、施設・設備、取扱方法、取扱者の健康管理などについて検査を受け、知事や市長の営業許可を必要としている。だが「営業以外の場合で、学校、病院、事業所等の施設で特定多数の者に食品を提供する」場合には行政長に届け出れば済む(資料3)。この「届け出」と「許可」の違いが学校関係への集中の背後にあるのではなかろうか?
 もちろん「届け出」施設にも、食品衛生監視員による定期的監視が実施されている。当然、学校給食施設も、食品衛生監視票にある温度管理のチェック項目を含め、衛生上の問題点が指摘されてきたはずである(資料5)。従って、もう一歩踏み込むならば、問題は学校給食が文部行政下にあり、食品衛生行政が十分機能できない状況にあるのではないか(資料8)、という疑念が生まれるのである。
 ここで思いだされるのは、堺市の学校には「大阪府下で唯一、給食施設に冷蔵庫が備えてない」との報道だ(資料910)。ことは冷蔵庫のみの問題ではなく、給食施設の衛生水準が一般の食品営業施設の水準を満たしていなかった可能性を示す。「学校給食法」における「実施基準」でも、施設・設備が「保健衛生上および管理上適切なものでなければならない」と書かれてはいるが、具体的項目に挙がっているのは調理関連施設のみだ(資料11)。教育行政当局の「調理直前に食材を運ばせるから冷蔵庫は不要」という認識は、交通渋滞の激しい現状では非現実的であり、衛生基準が欠落していると言わざるをえない。
 しかも文部省の諮問に「調査研究協力者会議」が出した答申(資料12131415)により、「夏季緊急点検」と「日常管理点検」が実施されている最中の先月21日、盛岡市内の小学校でO157による集団食中毒が発生している。これも、現在の給食施設の衛生管理システムに、なお問題が残っていることを示している。
 例えば「点検票」にある「衛生の管理責任者」にしても、「資格、権限、責任」などは明確にされていない。カネミ油症事件後、食用油製造業者に食品衛生法に定めた「食品衛生管理者」(資料1617)を置くことが義務付けられたように、大規模な食中毒事故を起こした「許可」業種と同等の取扱いを学校給食にも適用すべきではないだろうか。食品関連業者は今、製造物責任(PL)法に対応するため、自主衛生管理に必死になっている(資料1819)。そこで採用されているHACCP方式による点検などは、調理員を含めた協力と責任の体制を作ることが出発点だ。文部行政による「通達」では、そのような体制づくりは望めないだろう。
 食品がより安全であってほしいのは、学校給食に限らず、誰もの願いだ。ただし、車の安全設備に例えるなら、シートベルトをするかどうかは運転者の自覚がいるし、エアバックを装備するには経費がかかる。食品の安全も同様だ。
 だが日本では“シートベルトをする”自覚が低いようだ。昨年度、細菌性食中毒ではサルモネラとブドウ球菌を原因として各1名の死者が出ており、患者数は、それぞれ8000名と1000名近くに上っている。細菌性食中毒菌とはいえ、濃厚感染すると生死に関わることはO157に限ったことではなく、濃厚感染をひき起こす危険性は常にある(資料2021)。だが化学物質に比べて、細菌性食中毒に対する関心が低く、経口伝染病は減ったけれども食中毒が減らないことが、かねてから衛生行政における問題となっているのである。
 これが“エアバッグ”となると、経費負担に対する消費者の合意はほとんど得られていないのが現状だろう。例えば対米牛肉輸出をしようとした際、日本で処理された肉がアメリカの衛生基準に合わず、対米輸出専用の食肉処理施設を3カ所設置したが、国内向けはそのままで残った。なぜなら施設・設備の改善には経費がかかり、取扱方法の改善には作業効率の低下や手順の変更による労働災害の発生があるなど、食肉価格に反映させずにはどうにもならないと判断されたためだ。
 O157を初めとする細菌による危害を学校給食からなくすための政策も、こうした現実を踏まえたうえで、考えなくてはならない。すなわち、最優先にすべきな安価な策、つまりシートベルトに当たるのは「学校給食法による衛生管理システム」を抜本的に見直すことだろう。消費者が経費を負担する策、つまりエアバッグに当たる策としてのHACCP方式導入などは、それからだ。そのときまでに消費者は、食の安全にも経費がかかることを理解し、生産者とともに、その確保に向かわなくてはならない。だが、その前に、行政サイドの意識改革が求められるのである。
追記:文中の資料は、この記事を毎日新聞に掲載していただいた折、鹿児島県県民生協で講演した際に作成したものであり、記事の相当部分に差し込みました.また、翌年に愛知県のホームパーティーで起きた事故の報道に関して次の投稿をしております(資料2223).管直人元厚生大臣が伝染病指定(資料24)することによって世論の関心を「原因食品(カイワレ)」に急転回させ、学校給食のもつ問題点が曖昧にされました.現在もカイワレ業界による正当な裁判が続いており、管直人元厚生大臣が採った措置の適否が争われております.家畜やヒトの健康保菌の現状(資料25)が改善されない以上、「O157 フリー」の食肉を提供するためには、特別の殺菌処理が必要です.HACCP の提唱元である米国では、免疫の低下している易感染性患者の感染を防ぐために食肉の放射線殺菌を認可しております.さらに、小児、老人、妊婦などの危険性集団の安全性確保のため、二酸化塩素などの強力な殺菌剤を食品添加物として認可しております(米国で許可された食肉および食鳥肉の解体処理工程における抗菌処理).こうした殺菌処理と食中毒の危険性を総合評価することが重要であると思います.その日が来るまで、「カイワレ・パニック」のため農場のレタスを収穫せずにトラクターで踏み潰さざるを得なかった農家などの第一次生産者の怨念は続くことでしょう.当時有名になった表現を借りれば、「管直人元厚生大臣については、不必要なパニックを作り出したとは断定できないが、その可能性も否定できないと思料される」.

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クリアリング検索 - 検索結果(13件ヒット)
このうち、衛生管理に関するものは5件です。

1.レコード識別ID:015040000010
行政情報名:学校給食施設の衛生管理に関する実態調査
発行等時点:1997.06.30
行政情報A分類:教育・文化 , 行政管理
行政情報B分類:行政報告 , 広報資料
作成・編集・監修組織名:総務庁行政監察局
行政情報要旨、抄録:ホームページ参照

2.レコード識別ID:045000000560
行政情報名:学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究報告(平成11年3月31日)
発行等時点:1999.03.31
行政情報A分類:医療・保健衛生
行政情報B分類:調査研究報告
作成・編集・監修組織名:文部省体育局学校健康教育課
行政情報要旨、抄録:文部省では,平成10年度に食中毒が発生した調理場等について「衛生管理推進指導者派遣・巡回指導事業」を実施した。この事業において見られた学校給食における衛生管理の改善点や問題点等について,調査研究協力者会議が検討しまとめたもの。

8.レコード識別ID:045000000559
行政情報名:平成9年度学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究報告(平成10年3月)
発行等時点:1998.03
行政情報A分類:医療・保健衛生
行政情報B分類:調査研究報告
作成・編集・監修組織名:文部省体育局学校健康教育課
行政情報要旨、抄録:平成9年度において食中毒が発生した学校給食調理場について現地調査を実施し,学校給食における衛生管理の改善充実について,調査研究協力者会議がとりまとめたもの。

9.レコード識別ID:045000000554
行政情報名:学校給食衛生管理の基準
発行等時点:1997.04.01
行政情報A分類:医療・保健衛生
行政情報B分類:調査研究報告
作成・編集・監修組織名:文部省体育局学校健康教育課
行政情報要旨、抄録:昭和34年以来の学校給食における衛生管理の改善充実及び食中毒発生の防止に関する通知について整理統合等を行い,学校給食における衛生管理についてまとめたもの。

10.レコード識別ID:045000000553
行政情報名:学校給食における衛生管理の改善に関する調査研究協力者会議とりまとめ(平成8年12月26日)
発行等時点:1996.12.26
行政情報A分類:医療・保健衛生
行政情報B分類:調査研究報告
作成・編集・監修組織名:文部省体育局学校健康教育課
行政情報要旨、抄録:平成8年の腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒が発生したことをうけて,実際に食中毒が発生した地域の現地調査を実施し,学校給食現場等に共通に見られる問題点を分析した。今後の対応策として,?施設設備の改善,?調理実施上の改善点,?学校給食関係者の意識改革,?衛生管理体制の確立等が提言されている。

学校給食における衛生管理の改善充実について(依頼) 文部省体育局長(平成11年4月13日)
学校給食における衛生管理の徹底について(依頼) 文部省体育局学校健康教育課長(平成11年11月17日)