高病原性鳥インフルエンザ
鹿児島大学 岡本 嘉六

 昨夜帰りのカーラジオから、「ベトナムで3名死亡していたことが判明」というニュースが流れた。「やっぱり不安」という消費者のインタビューも同時に聞かされ、さらに、山口県では「念の為、出荷した農場からの卵の回収を始めた」と続き、「意図された」構成であることに、腹が立つ。「鶏との直接接触以外に感染しない」ことを繰り返し伝えることが、マスメディアの使命であるはずなのだが、鶏卵、鶏肉の安全性に疑義をもたせるような構成にしたがる。「念の為」とは、不用意に廃棄された鶏卵から野鳥や鶏が感染し、鳥類での流行が広がることを阻止するためにということであり、ヒトの健康被害を防止するためにということではない。 農林水産省が「制限地域からの鶏・卵の出荷は禁止」としているのも、鳥類への拡散を防止するためであって、ヒトへの健康危害を危惧してのことではない。このような不用意な言葉の使い方が、聞き様によっては、「やっぱり不安」ということに繋がってしまう。世界各地で鳥インフルエンザの流行が繰り返されてきたが、鶏卵、鶏肉からヒトが感染した事例は全くないことを周知することが、リスクコミュニケーションで最も重要なことである。
 
国内における高病原性鳥インフルエンザの発生について 農林水産省
3 防疫対応の状況
(1)初動防疫措置として、発生農場について既に部外者の農場への立入制限、卵の出荷自粛、鶏舎の消毒等を実施している。 
(2)今後、公衆衛生部局とも連携しつつ、家畜伝染病予防法及び高病原性鳥インフルエンザ防疫マニュアルに沿って、発生農場の飼養鶏全羽の殺処分、消毒、周辺農場における移動の制限、疫学調査の実施等、必要な防疫措置をとることとしている。

4 その他
(1)生きた鳥との接触等により、人に感染した例が知られているものの、食品(鶏卵、鶏肉)を食べることによりインフルエンザウイルスが人に感染することは世界的にも報告されていない。なお、3の移動の制限により、制限地域からの鶏・卵の出荷は禁止される。 

 ベトナムでも、1997年の香港と同様に、生きた鶏が市場で売られており、糞尿に排泄されたウイルスが埃としてヒトに吸い込まれる危険性がある。日本では、生きた鶏と接触するのは養鶏関係者だけであり、スーパーで鶏卵、鶏肉を買う一般市民は、感染の機会がないことをもっと広く伝えるべきである。そして、当該農場の罹患鶏の処分に当る関係者の健康問題に思いを馳せる心遣いが大切な事である。普段、何気なく口にしている肉、卵、乳を生産している農家が、不意にやってきた災難と戦っている姿をマスメディアは正確に伝えることで、「食への感謝」を広げる機会にしていただきたい。
 
鳥インフルエンザに関するQ&A - 国立感染症研究所感染症情報センター
 Q11: 発生農場の鶏の殺処分等に関わる養鶏従事者・獣医師等の感染防御は、どのようなものですか?

  ・ニワトリの殺処分と死体処理、検査などにあたっては、感染が疑われる鶏の体液、排泄物等による汚染に注意し、作業に従事する者はそれらの体液等に直接触れたり、吸い込まないよう、ガウンを着用し、手袋をつけ、ゴーグル、医療用マスク等で防御すべきです。また作業終了後は、石鹸、流水による手洗いが必須です。院内感染予防対策におけるマスク、手袋、ゴーグルの装着、手洗いの方法などを参考に作業前に練習と確認を行い、確実に実施できるようにして下さい。

・作業に従事した者およびその家族については、健康状態に留意し、発熱などインフルエンザ様症状の出現などの体調に異常があった場合は、その旨を医療機関に伝えた上で直ちに診療を受けて下さい。

・万が一、国内でトリからヒトへの感染が確認された場合は、感染者に対しては直ちに抗インフルエンザウイルス薬による治療が必要です。さらにその周辺の人々へは抗インフルエンザウイルス薬の予防投薬を行うことを考慮すべきです。

 良識のある記者の皆様が、明日の日本を築くため、「私 食べるヒト」と「あなた 作るヒト」の対立を助長するのではなく、「私もあなたも、生産もすれば消費もする生活者」という立場で、生命の尊厳を考える素材として、数万羽の淘汰鶏を報道して下さい。そして、それこそ、感染の危険性を冒し、生活の糧を失う農家の方と共同作業している姿を報道して下さい。安全圏にいる「私 食べるヒト」に恐怖を植え付けるようなことをしないでください。(2004/1/14)