BSEから鳥インフルエンザへ
鹿児島大学 岡本 嘉六
「ヒトの噂も・・・」という表現が何時頃できたのか知らないが、それを裏返せば、新しい噂を追い求める今日の世相が見えはしないか? 「マスコミが日本を破壊する」という悲しい情況を「カイワレ騒動」から「BSE騒動」まで見てきたが、足が地に着いた論議ならともかく、「これで一儲け」というタカリ屋評論家と「これで視聴率アップを」というマスメディアが、噂話が大好きな庶民を煽り立てる構図は、変わらないのだろうか?
山口で発生した高病原性鳥インフルエンザのニュースを見ていると、「私は専門家ではないが・・・」というタカリ屋評論家が登場し、聞きかじった話をした挙句、「突然変異によってヒトに感染するタイプに変わる可能性もあり、怖いですね」と締めくくる。彼が言いたいのは、最後の「怖いですね」であり、恐怖を撒き散らすことにある。他方、科学は突然変異があり得ることを否定するものではなく、その頻度がどの程度か判断できない庶民は、「可能性 = 明日にも起こる」と警戒せざるを得なくなる。
スーパーに行って肉売り場をみたら、「米国産牛肉」が並んでいた。複雑な心境で眺めたのは、かつでの「在庫牛処分」の1件が心に引っ掛っているからである。BSE騒動が始まって間もなく、発生前の在庫牛をどうするかが社会的関心を呼んだ。「肉から感染する危険性はなく、安全性には問題がない」と解説文をホームページに掲載し、講演会でも説明していた。10月末に行われた本学の動物慰霊祭での講演会でもそのように主張し、南日本新聞にも掲載された。しかし、「食の安全性に関する講演と牛肉の試食・販売」を企画したところ、NHKが「鹿児島大学では牧場の牛肉をただ食いしようとしている」と文部科学省に通報し、私は大学本部から注意を受ける羽目となった。
狂牛病(牛海綿状脳症、BSE): どの程度危険か?: 平成13年9月19日
南日本新聞: 平成13年11月1日
「食の安全性」に関する講演と牛肉の試食・販売会: 平成13年11月22日
大学の牧場にも在庫牛肉があり、それを教官が購入して焼肉パーティーをし、一般市民には検査済みの牛肉を販売する企画だったのが、何を勘違いしたのか「ただ食い」と通報されてしまった。NHK支局に抗議の電話を入れたところ、「公務員がただで飲み食いしている現状は目に余る」との一点張りであった。「視聴料なんか払わんぞ!」と怒り心頭に達したが、子供の喧嘩じゃあるまいし、と言葉を飲み込んだ。在庫牛を食べること自体がNHKには過激な行動と取られてしまった訳であり、それを想い出すと「米国産在庫牛肉」が平然とスーパーに並び、牛丼チェーン店が「米国産在庫牛肉」を切らさないように計画的に使っているとの報道を複雑な気持ちで受け止めることになる。
「牛肉 = 生きていた牛」であり、「牛肉を燃やせ = 生きた牛を燃やせ」というヒステリックな一斉唱和が聞こえる中で、命を食べることでしか生きられない生物の定めを忘れてしまった悲しさが込み上げてきた。現在、「共生と競争の生物界」をここに連載しているが、地球規模での命の循環を円滑にすることが求められている時代にあって、発展途上国で多くの人が餓死線上を彷徨っている時に、安全性とは関わりのないレベルで食料を燃やせと主張するタカリ屋評論家は狂っている。
当時、燃やせと大合唱したタカリ屋評論家とマスメディアは「米国産在庫牛肉」をどうのように見ているのか? そして、今捕まえた獲物 = 鳥インフルエンザをどのように料理して儲けようと考えているのか?
テロリストより悪質なマスコミの扇動: 平成13年10月4日
変異は無方向性に起きるものであり、変異した時点で大半は生物として生きるDNAの基本情報が壊れてしまい生きていけない。残ったわずかの変異体が、ヒトに感染力をもつに至る確率はそう高くない。インフルエンザの大変異は10年に1度とされていたが、ソ連風邪以降30年ほど大変異株が登場していないので、そろそろ、大変異を起こした新型ウイルスが出現する可能性があると世界中が注目しているのも事実である。しかし、1957年のアジア風邪が雲南で発生してからわずか半年で世界中に広がったことからすると、交通網が船舶から航空機に変わった現在では新型ウイルスは瞬く間に広がると予測される。
共生と競争の生物界 (1) インフルエンザ: 平成15年5月22日
香港での流行時に、マスコミが騒ぎ始めた秋になっても広がりはなく、昨年の欧州での流行も広がらなかった。そのことからすると、鳥インフルエンザがヒトに感染するのは、乾燥した糞便を埃として吸い込むなど、鳥と直接的な接触をもたないと感染しないことは明らかである。世界流行するような新型ウイルスは、やはり、感染豚での遺伝子組み換えがないと登場しないという従来の考えが今でも正しいことを示している。養鶏農家の健康を気遣っているのならともかく、一般国民に鳥インフルエンザの脅威を必要以上に宣伝することは決して正しくない。
安全と危険:御存じですか?: 平成9年9月
1997年当時、インフルエンザ・ワクチン接種率が低下していることが、国民衛生に最も脅威となると主張したが、昨年の新型肺炎以降、ワクチン接種希望者が増加し、年末にはワクチン切れの事態となった。「ワクチン禍」を煽り立てた「タカリ屋評論家」は、インフルエンザの脅威にどう対処するのか説明できますか?
正しい理解のため、私が講義に使っている「インフルエンザ」のスライドを掲示します。