予防体制: 拡大防止と浸入経路

鹿児島大学 岡本嘉六

 

「馬鹿の一つ覚え」という言葉がメディアから聞こえてくる。SSEの発信地は英国であり、英国が垂れ流した汚染牛骨粉などによって、欧州、北米、日本などへ感染が広がったという明白な浸入経路が明らかにされていても、具体的に、どの会社が、どの国のどの会社から、何時輸入し、国内販路が判らないことをもってメディアは不安を煽る材料とした。物流、ヒトの移動がグローバル化した今日において、詳細な調査をもってしても数年も前の事態を解明することは不可能に近いことを指摘し、そうした不明な細部を残していても今後の流行を止める施策(牛骨粉の製造、輸入、販売、使用の禁止)が確立したので新たな感染は起きないことを説いてきた。事実、日本におけるBSE流行は、過去の汚染飼料を給餌した牛に限られ一過性に終わることが明らかになりつつある。このように、流行を止めることと、浸入経路の細部を解明することとは、まったく別のことである。

予防体制を構築する上で、浸入経路を特定できれば対策が立てやすいことはあろう。しかし、それにも限度があることを理解しなくてはならない。牛骨粉のように人為的にしか移動しない物品とは異なり、養鶏資材の他に、鳥インフルエンザについては自然界の種々の要因や、無関係な観光客等の社会的要因が深く関わってくる。たとえ、今回の浸入経路の細部が判明したところで、次回の浸入防止に役立てられるとは限らない。肝心なことは、現在アジアでH5N1タイプが広がっていることであり、様々な浸入経路で日本に上陸する危険性は常時あることを理解することである。

韓国での発生があって、強い季節風が運んだとしたら、次回の浸入防止策として季節風を止められますか? 韓国と結んでいるフェリーが運んだとしたら、次回の浸入防止策として車両消毒は可能だが観光客をどうしますか? カモが運んだとしたら、空にネットを張りますか? 韓国だけでなく、中国や台湾との交通網を遮断できますか? 日本の空港を閉鎖しますか?

BSE騒動が収まっていない20024月に、大学の所用で農業高校を訪ねた時、「今年の修学旅行を韓国にしようとしたら、父兄から怒鳴り込まれた」という話を聞いた。「口蹄疫の危険性が去っていない所を回った足で息子が帰ってきたら、周囲の養豚農家に顔向けできない」という農家の切なる気持ちである。ある新聞で伝えてくれたが、養鶏関係者は、自宅で鶏を飼うのはもちろん、小鳥を飼うことも厳禁されている。こうした行動制限を一般市民に求めることはできないでしょう。浸入経路の特定が予防体制構築と結びつかない場合も多いことを理解し、「馬鹿の一つ覚え」は止めていただきたい。

WHO15日に発表した「鳥インフルエンザ: 事実関係」には、「鳥インフルエンザとヒトへの伝播に関する重要事項」として6項目を挙げて説明している(全訳は感染研がしてくれると思いますので、要点を書き出します)。

1. 鳥の病気: 影響力と制御手段

                       カモなどの水禽類が自然宿主であり、それらは発症しないが、鶏や七面鳥などの家禽が感染すると急速に広がり致命的となる。

                       感染農場を隔離し、感染およびその可能性のある群を淘汰することが標準的制御手段である。伝播力が強いものは別として、鳥インフルエンザウイルスは、汚染した器具、車両、飼料、ケージ、衣類などにより、農場から農場へと機械的運搬により容易に広がる。高病原性ウイルスは、環境中に長期間生存し、とくに気温が低い時期は長い。農場における厳重な衛生措置は、ある程度の予防になる。(岡本註: 感染経路を完全に断つことが困難であることを意味し、基本的手段は発生後の対応であるとしています)

                       監視(サーベーランス)に裏づけられた迅速な制御手段がないため、流行が数年続くこともある。

2. 常に起きるウイルスの変異: 2つの重要事項

                               インフルエンザウイルスは、複製時のエラーについて「校正」や修復の機能を欠如している。訂正されないエラーのため、ウイルスの遺伝子構成は変化し、新たな抗原をもつ変異株ができる。このような常時生じる普通は小さな抗原変化は、「抗原連続変異」と呼ばれている。

                               異なる種類のサブタイプからなるA型インフルエンザウイルスは、遺伝子の部分交換、「再配置」および融合を行う。「抗原不連続変異」として知られる再配置の過程は、親株とは異なった新たなサブタイプを生み出す。人々は新たなサブタイプに対する免疫がないため、「抗原不連続変異」は致命率の高い世界流行を過去に引き起こしてきた。世界流行が起きるためには、ヒト・インフルエンザウイルスの遺伝子部分を新たなサブタイプが取り込む必要がある。

3.鳥インフルエンザによるヒトの感染: timeline

4.H5N1がとくに重要である理由

5.インフルエンザの世界流行: 防ぐことはできるか?

6.H5N1鳥インフルエンザによるヒトの症例の経過と治療

 

WHO Global Influenza Surveillance Network